未来の無い社会

あなたは未来についてまじめに考えているか。世の中は変化が激しいので、未来を考えるのは難しいなどと、いい加減なことを行っていないだろうか。確かに昔は、何百年も社会が変わらないことが普通だったので、未来は考えなくてもわかったかもしれない。長く続いた徳川時代なら、家業や家督を子孫に引き継ぐ未来を想像したかもしれないし、何千年も続いたエジプトの王朝時代なら、いくら生まれ変わっても奴隷のままだったかもしれない。でも、未来を考えるのは未来を予測することでなく、未来を自由に描くことだ。たとえ奴隷でも、王様になる未来を描いて努力するのはできることだ。

つまり、未来を考えるのは何かを願うことだ。天気予報で明日は雨でも、雨が降ったら困るなら、降らないで欲しいと願うだろう。考えたとおりになるかどうかは二の次で、どうなって欲しいかが無ければ、喜びも悲しみも起こらない。願うからうれしいし、心配するから安心する。未来は考えることによって作られると僕は思う。逆に考えずに未来を迎えたら、無感情でそのまま受け止めるしかない。だから、あなたは絶対に未来を考えているはずだ。あまり未来は考えないという人は、考えていないんじゃなくてそれを説明するのが苦手か面倒なだけだ。今日は、あなたも必ず未来を考えているという前提で話を進めたい。

さて本題はここからだ。最初はあなたの仕事について未来を聞かせて欲しい。ここでいう仕事とは、何かの成果を伴う作業のこと。成果は収入でも満足でも何でもいい。成果を求めてあなたが取り組む仕事がうまく行ったとする。あなたはそれをいつまで続けたいか。もしもやめて、次の仕事をしたいのなら、それはどうするのか。つまり、自分のやりたいことをいつまでも続けたいかどうかという質問だ。そしてもしもあなたが続けたいのなら、あなたができなくなったらどうするか。誰かに引き継いで欲しいかそれとも自分だけで終わらせたいか。もしも誰かに引き継いで欲しいとしたら、その人にはどうして欲しいのか。つまり、永遠に続けて欲しいかどうかというのが最初の質問だ。

実は、同じ質問を家族でもしてみたい。あなたは自分の遺伝子を引き継ぐ子供が欲しいか。自分の遺伝子でなくても知識や技術など何でも良いから引き継いでくれる人が欲しいか。そしてその人にはどうして欲しいかと。更にもう一つ質問があって、それは故郷に関する質問だ。あなたには、これから帰りたい故郷があるか。もしもまだ無ければ、これから故郷を作りたいか。そしてその故郷はいつまであって欲しいか。自分が死んだ後もいつもまでもあり続けて欲しいか。これらはすべて、未来についての質問で、最終的には永遠についての質問だ。仕事、家族、故郷の未来について考えると、それは永遠について考えることになる。

実は、空き家問題を考えているうちに、僕はこの3つの言葉にたどり着いた。空き家は次々と生み出され、それらはさらに増え続け、減ることは無いのは、これら3つを考えないからだ。というのは、空き家が発生し増え始めたのは終戦の直後から。第2次世界大戦で日本の都市部は焼け野原となって壊滅状態だったから、日本の住宅はそこから作り始めたと言っても過言ではない。ところがそれ以来住宅戸数は増え続け、空き家の数も増えている。日本の人口は1980年代に頭打ちとなっているのに、その後も増え続けているのは家族が分裂して世帯数が増えているためだ。

昔日本に会社は無かったので、ほとんどの家は仕事場を兼ねた住まいであり、会社勤めのサラリーマンと共に専用住宅が生まれた。およそすべての商店や作業場は、自己所有の建物だったので、誰も家賃など払わなかった。ところが、会社ができ家業を継がずに就職する人が増えると、家業を廃業して賃貸したり住宅に変化する。現在空き家の過半数は賃貸住宅の空室だが、2年契約が大部分なので、すぐに空き家になる仕組みだ。残りの自宅は、本来家族が使うはずなのに、別居したり解散したりで自宅を引き継ぐ家族がいなくなっている。やがて子どもたちは故郷を捨てて出ていくが、残された親も子供に引き取られたり施設に入って故郷を捨てていく。とても大雑把だが、これが仕事と家族と故郷が捨てられるプロセスだ。

こうして捨てられる前は、仕事と家族と故郷は長い間引継がれてきた。世界の長寿企業の大部分が日本にあり、その大多数が地域密着の家族経営だ。明治以降7万以上あった集落が今や1700余りの自治体に統合され、ニュータウン以外に増えたまちなどどこにも無い。明治以前はエネルギーや食糧の供給は無く、すべての地域が自給自足で自立していたことを考えると、現代の日本に存在する自立した経済圏は、東京、大阪、名古屋などの大都市圏を考慮すれば、都道府県の自立すらおぼつかない。このままでは、日本の地域は30程度となり、中心部以外は空き家だらけの廃墟となる。これが客観的な日本の将来予測だ。だから僕は、みんなに未来を考えて欲しい。放って置いてもなるようになる世界に身を任せたくないからね。これから捨てられる地域で仕事を起こし家族を作り、故郷として支配してもらいたい。それが僕の思い描く未来の姿だ。