昨年開催したSHO-KEI-KAN展Ⅲで紹介した「ランドバンク」が、じわじわと脚光を浴びつつある。
【アメリカの取り組み】一部の州で先進的に活用しているランドバンク(LB)は自治体内に設置される州法で定められた行政組織のこと。固定資産税を一定期間滞納した物件は、裁判所等の手続きを経て、郡のLB の所有とすることができる。LB は、放棄物件の活用を図るため、様々な事業を行う。また、地域住民との協働による活動や、収用物件を地域に管理委託して行うコミュニティガーデン事業等を通じて居住環境改善に寄与し、空き家の収用、不動産価値の向上や犯罪件数の減少に寄与している。なお、オハイオ州では公設の民間企業として、LBに相当するLRC(Land Reutilization Corporation) が設置されており、好採算物件の収益を不採算物件の経費に回すことで収支を確保しているという。(以上、SHO-KEI-KAN展Ⅲより引用)
こうした取り組みに触発されたのか、政府・与党は5月9日、空き地の再開発や流通を促進するため、所有者不明のまま放置された土地を公的機関が利活用できる制度・・・「日本型ランドバンク」を創設する方向で検討に入ったと報じられた。簡易な手続きで公的機関が土地を借り受けられるようにすることで、国や自治体が効率的に道路整備などを進めることが可能になり、地方の再開発に道を開く効果が期待されるという。そして、政府が6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」に制度創設を盛り込むため、米国で成果を上げている非営利組織「ランドバンク」などの先例も踏まえ、5月中をめどに“日本型”の制度設計に向けた議論を本格化させる…と鼻息は荒かったのだが、その後足音は聞こえてこない。
一方で、国内では農地の利用を促進する「アグリランドバンク」が注目を集めている。これは、山形県鶴岡市の取り組みで、「空き家バンク」の取り組みが「空き家の賃貸情報」だけでなく「農地の賃貸情報」を取り扱うようになった事例だ。Webサイトを見ると「農地の貸し借り、売買については、地域の農業委員や生産組合長、JA等の仲介やあっせんにより行われていますが、この度、貸し付け、売り渡しを希望する農地等の情報を一元化し、広く農業者に公表することとしました。」とあり、農地活用の門戸を広げるという意味においては新たな取組と言えるだろう。だが、米国型ランドバンクが土地の所有に関わるのに比べ、日本の空き家バンクは情報開示による流通・仲介に留まっており、正確には「情報バンク」の域を出ない。「農地バンク」や「民家バンク」といった類似の取り組みも同様だ。
そこで、「ランドバンク」の意味についてさらに調べると、Wikiで面白い言葉を見つけた。「ランドバンキング(Land Banking)とは、1970年代のアメリカにおける地方自治体の土地利用の際に用いられた土地の有効取得手法に対して名づけられたものが最初と考えられている。その後、この言葉は民間の不動産開発会社による長期的な不動産開発ビジネスを意味するものとして使用されることになった。開発までの期間が長いことが理由で、投資家からの資金で事業を進めていくことが多いことから、不動産開発を利用した投資商品をランドバンキングと呼んでいる場合もある。各国においてランドバンキングという言葉の確固とした定義は存在しないと思われる。国によって細かい意味は異なるようであるが、一般的にはこうした未開発の不動産を活用した資産運用手法がランドバンキングと呼ばれている。」と。だがこれは、読んでお分かりの通り「地上げ開発」とあまり変わりがない。不動産の抱える課題を「投資のチャンス」としてしか解決できない発想こそが、今変えるべき思い込みなのではないか。
僕は、不動産ビジネスの新しい価値として「非営利ビジネス」を提唱し、笑恵館を実践している。米国型ランドバンクがそうであるように、ランドバンクは営利を追求するのでなく、その持続と発展を優先すべき事業だ。それは、使われていない土地や建物(土地資源)の収益率よりも利活用率を高めること。使われていないのなら利用者を募り、たとえ無償でも利用に供すべきだ。そこで大切なのが「資源」を提供するのでなく、「所有権」を提供すること。所有者としての権利と義務、自由と責任をすべて提供するべきだ。つまり究極的には、土地資源の活用を望む所有者からの「寄付の受け皿」になることを意味している。「そんなことは国がやることだ」とあなたは思うかも知れない。だが、財務省は「国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか?」という問いに対し、次のようコメントを公開しているので、読んで欲しい。
「【答】 国が国以外の方から土地等の寄附を受けることは、強制、行政措置の公正への疑惑等の弊害を伴うことがあるため、閣議決定(参考)によって原則として抑制しております。しかし、前述の制限に反しないような寄附の申出があった場合、土地、建物については、国有財産法第14条及び同法施行令第9条の規定により、各省各庁が国の行政目的に供するために取得しようとする場合は、財務大臣と協議の上、取得手続をすることとなります。また、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付を受けることには合理性がなく、これを受け入れることはできないと思われます。」http://www.mof.go.jp/faq/national_property/08ab.htm
日本では、土地を所有し社会に役立てるのは僕たち自身の役割だということを、忘れないで欲しい。日本における公有地とは、国民全体がその管理を公的機関に委ねているだけで、中国や北朝鮮と違い、日本の国土はすべて国民のものなんだ。だからこそ、個人が持て余す土地や建物を預かって保有するのは、僕ら自身の役割たと僕は思う。その取り組みのキーワードとなる「ランドバンク」という言葉が、乱用され、迷走しないように、願いたい。