古民家と所有者

ようやく秋らしい快晴の日々が続くようになったので、昨日の朝僕はスーパーカブに乗って、「所有者主導の土地資源活用事例」の訪問調査に出発した。今回この調査を思い立ったのは、もちろんソーシャル不動産プロジェクトの紹介事例を増やすためだ。先週まで雨や台風が続いたり足の小指を怪我したりで、どうせ事務所で悶々と暮らすなら、思い切って時間を割いて活用事例を検索しまくった。収集にあたっては、施設所有者の関与についての記載を懸命に探したが、ほとんど見当たらないことが判明した。恐らく土地資産の所有者情報はプライバシーとして保護されているのだろうが、だからこそ、僕はこの調査の必要性をさらに感した。土地所有者の思いを開示するというソーシャル不動産の目的に加え、現地を訪問し、現場の事業者と所有者の関係についても僕自身が直に触れてみたいと思った。だがその前にまず、所有者が関与している事例の候補を、どうにかして探し出さなければならない。

土地資源の活用事例に当たる条件は、公的制度や助成金に頼らない自立事業であることだ。公的制度や助成金は永続的に保証されるものではなく、持続するには自立経営が不可欠だ。また、調査に行く以上訪問を受け入れる業態であることが望ましい。そこで、積極的に情報発信して利用者や見学者を募る施設となると、「飲食店」「物販店」「レンタル・撮影スペース」などが中心となる。それらの中から、施設所有者が主体的に関わる事業を選別するとなると、所有者ならではのこだわりが反映された施設や事業となるはずだ。そこで僕が目を付けた検索ワードは「古民家」だ。「古民家カフェ」、「古民家ショップ」、「古民家スタジオ」の3つで探し、それらの中から僕の独断で行ってみたいと思う施設を選んだ結果、東京周辺で集めた約200か所の事例をマップに落とすことができた。そんなわけで、今日は「古民家と所有者」の関係について、3つの視点で述べてみたい。

「古民家」は良い環境の象徴だ。そもそも民家とは、地域の素材で作られた土着建築のことであり、その地域の環境に適合することで逆に地域そのものを象徴している。だからこそ、観光事業において古民家が強みを発揮するのは当然のことだろう。外国人旅行者にも絶大の人気を誇るのは、まさに古民家が「体感できる日本」だからに違いない。農村、田舎、里山と言った日本の原風景にも欠かせない存在だし、都会よりも地方に優位性を感じる貴重な土地資源だ。そして「こうした環境を守ることは、所有者に委ねられた責任だ」という思いが、子孫に土地を継承していく最大の動機となっているではないだろうか。この場合の土地とは、決して切り売りする財産でなく、地域社会が生きるため協力して守るべき資源なのだと僕は思う。

次に「古民家」は価値の象徴だ。「古い」ということは、永く壊されることなく継続してきた歴史的価値を意味する。その価値は再現模倣できないゆえに「本物」を意味するし、「もったいない」という思いを喚起する。所有者が土地を手放したくないと思うのは、永遠に続く時間の価値を有限のお金に換えることへの躊躇でもある。都会の中に取り残された古家を、開発せずに守り続けるのは目先の経済合理性には反するかもしれないが、やがて周囲がすべて開発された後にむしろ希少価値を獲得した事例はいくらでもある。「何かを守り続ける行為」は、モノの価値に対し無形の価値を付け加えることになる。そしてこの価値は、自然の恵みでなく人間自らが生み出すことのできる価値であり、すべての所有者はそれを手に入れる権利を持っている。

そして「古民家」は自由の象徴だ。地域の環境やそこで調達できる素材などの制約はあるものの、あとは自由な創意工夫に満ちている。特に木造建築は加工が簡単なプレハブ建築なので、増改築や移築を繰り返しながら数百年単位で使われてきた。現在のリノベーションやDIYブームは、木造の古民家では昔から行われてきたことであり、「古民家」は規格化された工業製品に対するローカルな手作り製品をイメージさせる。この自由は、一方では金銭的束縛からの自由でもある。DIYが割安なのは当然だが、そもそも古くなった建物は、ローンの返済負担が無くなる上に、減価償却が進んだ結果固定資産税評価も低くなっている。何もしない所有者に対しては節税目的と称して投資や開発の誘いうるさくなるが、土地活用を目指す所有者にとってはこれからが本番だ。当面の利益が見込めないチャレンジそのものが、絶好の節税対策になる訳だ。

これら3つの理由から、僕は「古民家の背後に所有者あり」という仮説を立ててみた。家賃を払いながら行う古民家ビジネスには常に「取り壊しのリスク」が付きまとう。これを防ぐには、所有者との関係づくりが欠かせない。だから古民家ビジネスは、何らかの形で所有者が関与しているに違いない・・・という訳だ。僕は「日本土地資源協会」の名刺をたくさん印刷して、古民家めぐりの調査を開始した。顛末の報告はまた後日をお楽しみに。では行ってきます!!

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