ランドリソース発進までの、3つの迷い

2月2日、ようやく公益認定の申請手続きを開始しました。振り返るとこの法人は、土地の永続的な利活用を実現するため、個人の所有から法人所有に移行する受け皿として設立したという意味で、当初から公益法人となることを目指してきた訳ですが、これまでの間、次のような3つの岐路を経てきたように思います。
・この事業の公益性をきちんと説明できるのかという岐路
・公益事業とは公益法人でないとできない事業なのかという岐路
・公益法人になる前に公益事業に着手するべきかという岐路

法人の設立当初は、土地資源の放置や放棄の最大要因は、土地資源の生み出す収益の格差ではないかと考え、これらを一括所有して再配分することの公益性を説明しようと考えました。ところが、公益認定の手続きにおいて、公益目的は法令が定める22の公益性の中から選択しなければならず、すっかり困惑してしまいました。なぜ公益性が法律で定められているのか、民による新たな公益とは看板倒れではないのかと。しかし、認定する側の身になってみれば、これは当然のことだと気付きました。22の公益とは、すでに社会のコンセンサスを得ている公益のことであり、その組み合わせで生み出される公益は、そのコンセンサスの上に成立します。もしも我々が新たな公益の概念を提示すれば、当法人の認定以前に、その新たな公益概念に対するコンセンサスづくり=国会承認が必要となるわけです。そこで頭を切り替えて、22の公益から必要不可欠な4つの公益性を抽出することができました。与えられたものを使ってでも、十分に新しいものを作れることを思い知らされました。

特別な自然や文化財でなく、特別な機能や環境を備えなくても、民有地の内容を公開し、誰に対してでも開放し続けることができれば、それは官有地では為しえない自由な経済活動や生活を営むことができる国民に不可欠な公益資源となるはずです。だとすれば、次に私は、それは公益法人にならなければできない事業なのかどうかを知りたくなりました。土地を寄贈や遺贈によって取得する際の税金がほとんど免除されるため、公益法人になった方が良いのは明らかですが、公益法人にならなければ=この事業の公益性が認められなければ事業ができないというのは、やらない言い訳ではないのか・・・という思いが湧いてきました。そこで、寄付が無理なら無償の貸与はどうなのか・・・を税務当局に打診したところ、「問題なし」という回答を得ることができ、早速「賃貸借による所有権取得契約」を開発しました。これで、準備は整いました。たとえ公益法人にならなくても事業に着手できる状態で、堂々と公益認定の申請に臨めることになった訳です。

そして最後は、公益認定の申請をする前に実際に公益事業に着手するかどうかの迷いです。事業に着手せず「構想」の状態で申請に臨めば、いかなる問題にも楽に対処できるかもしれませんが、何より大切な事業の実現性と実効性を突き付ける「現実」がありません。笑恵館の実績も「参考事例」の域を出ず、「公益性の否決」に対して何の対抗もできません。しかし、時はすでに12月を迎え、1月に予算執行してから申請するのであれば、年内には決算を済ませ、新年度から会計を動かさなければなりません。結局我々は、即座に総会を招集し、事業年度を3月締めから12月締めに変更し、1月の新年度をもって公益事業に着手してから申請手続きを行う道を選びました。

ランドリソースという新しい公益事業スキームは、公益法人の認定を受ける前に自力で離陸し、公益認定をもってひとまず周回軌道に乗り、その後体制を整えて宇宙を目指す・・・そんなイメージのスタートとなりました。

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ランドリソース・3つの公益事業(公益認定申請書 別紙2より)
公1 ランドリソースの登録・取得 民有地は本来国民生活に欠かせない資源として、誰もが利活用できるよう供給されたはずなのに、一定の役割を終えた多くの土地が、使われずに放置されている。 ランドリソースとは、所有者自らが現状に関する情報を開示し、新たな利活用に関する提案を広く一般に募ることで社会に供給される「国民生活に資する永続的な土地資源」のこと。 本事業では、所有者より提供されたランドリソースに関する情報を登録・公開し、現状のままでその利活用を推進するための事業を立案し、当法人が主体となって永続的に事業を担う体制を整備する。
公2 ランドリソース活動の運営・助成 民有地は官有地と異なり、自由な日常生活や経済活動を営める場所なのに、互いを訪ね、迎え入れる市民同士の関係が希薄になり、地域の活力が低下している。 ランドリソース活動が目指すのは、民有地が開かれた自由な活動の場となることで、地域の顔見知りの輪が少しずつ広がり、やがて誰もが豊かに安心して暮らせる地域社会の実現に寄与すること。 本事業では、地域ごとに誰もが参加できる会員組織を作り、すべての関係者を緩やかに繋ぎながら、地域社会への貢献や新たな利活用に挑む活動を助成することで、土地資源を中心とした地域コミュニティを育成する。
公3 ランドリソース活動の広報・啓発 空き家や耕作放棄地の増加は、国土の荒廃として誰もが取り組むべき課題なのに、民有地であるがゆえその対応は所有者個人に委ねられ、人々は手をこまねいている。 ランドリソース活動とは、個人の財産として放置されている土地や建物を所有者任せにせず、みんなの資源として確保し、みんなが所有者になったつもりで利用・整備・保全していく取り組みのこと。  本事業では、この活動の内容を様々な媒体による発信やイベントなどを通じて広く普及し、「空き家の無い社会の実現」に向けて誰もが当事者として寄与できることを啓発し、活動の担い手を事業者として育成する。