先日僕は、遺言の説明会に参加した。

自宅で料亭を営むSさんには息子と娘がいるのだが、料亭を立ち上げた妻が6年前に亡くなった後は、息子の妻が料亭の運営を引き継いでくれた。

だが、年を取るにつれSさんはこの料亭の将来に不安を感じるようになってきた。

あくまで法定相続人は、血縁のある息子と娘であり、大切な息子の妻の取り分はない。

そこで、息子の妻を養女に迎え、相続の取り分を確保したのだが、料亭の継続のためには相続税の心配以前に土地の分割を食い止めなければならない。

そこでSさんは、日本土地資源協会(以下協会という)への包括遺贈を決意し、親族を集めて協力を要請することにした。

遺贈(いぞう)とは、遺言により相続人以外の個人や法人に財産を無償で譲ること。

遺贈には財産を特定して遺贈する「特定遺贈」と、財産全部または一部を割合だけを定めて遺贈する「包括遺贈」の2種類がある。

Sさんの場合は、全財産を協会に包括遺贈する旨の遺言書を作成することにしたので、3人の相続人に対する相続は辞めたことになる。

さらに言えば、法定相続人には法律が定めた「遺留分」という権利があり、たとえSさんが包括遺贈を求めても子供たちは遺留分を求める権利がある。

これに対し、あらかじめ協会は「すべての相続人の合意が無ければ包括遺贈を放棄する」と宣言した。

そこで、この説明会の目的は、Sさんが自分の願いを子供たちに説明し、料亭の存続と包括遺贈に対する合意を作ることだった。

息子とその妻は、もともとこの案に賛同していたので、心配は嫁いで家を出ている娘だけだった。

さらにその日は、Sさんの妻の七回忌の法要で、妹家族のほか息子の前妻家族も参加していた。

だが、誰もがSさんの思いを快く受け止めて、「何よりも実家が存続してくれてうれしい」と賛同してくれた。

実を言うと、Sさんには過去に作った借財がまだ残っていて、この料亭の存続は容易とは言い難い。

でも、事業の存続・継承とは、そういうものだと僕は思う。

だから、家族の皆さんの賛同は、Sさんにとってはもちろんのこと、これから料亭の経営再建に協力する僕にとっても、何よりの励みとなった。

遺贈によって土地所有を法人化し、永続的な土地利用に取り組む事業としては、僕にとってSさんの料亭が笑恵館に続く2件目の事例となった。

そもそも今から7年前、相続による土地分割を望まない土地オーナー(田名さん)との出会いから、僕は相続制度の弊害に気づき、土地継承に関する「相続以外の選択肢」を模索し続けてきた。

はじめは公益法人を目指したり、土地所有者に地域社会への貢献を呼び掛けたりしてみたが、なぜか違和感のようなものを払しょくできず、事業に本腰が入らなかった。

だが、そのおかげで、僕が一番大切に思うことは「自発性」ということに気が付いた。

たとえどんなに時間がかかる遠回りでも、「自分の意思でやる人」と出会わなければ僕の目指す「永続」は叶わないと思う。

というわけで、僕は引き続き「土地相続の辞め方」について、語り続けることにした。

今、多くの土地所有者が、土地相続に伴う土地分割や売却を、運命のように諦め、受け入れている。

だが、それ以上に「相続したくない」、そして「相続できない」という人が増えている気がする。

土地を引き継ぐ人に相続税の負担をさせたくない。

土地を引き継ぐ気の無い人に土地を相続したくない。

土地を引き継いでもらいたいのに相続させる人がいない。

そんな人たちに僕は言いたい。

土地相続の辞め方・教えますよ!